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シゲは切望した。
勇さんがここにいて自分と過ごしたこの時間が永遠であるように。
「あの子は……みゆきは、勇さんの娘でした」
かすれた声で、辛うじて聞こえた。
「誠さんは知っていたの?」
叔母の声が上ずった。
義母を責める険しい顔。
無理もない。
高野の叔母は誠さんのことが好きだったのだから。
「知っていました」
「姉さん、酷い……」
叔母は怒りを抑えるかのように、両手を合わせて眉間にあてがった。
「本当に酷いことを……。優しい誠さんは何もかも受け入れてくれたのに。みゆきが亡くなって勇さんとのつながりがぷっつりと切れてしまって、自暴自棄になっていました。何をしても誠さんが怒らないことに苛立ち、八つ当たりをしては罵り、困った顔を見て憂さ晴らしを、していました」
義母は自分の心の奥深くでくすぶっていたドロドロした感情を声を押し殺して語ったのだった。
「遠慮なんかしないで、誠さんに告白してしまえばよかった」
叔母は言葉を吐き捨てて、少し乱暴にティーカップを口に運んだ。
「……トミちゃんが目を覚まさせてくれたの。あのハンカチのことでトミちゃんに嫉妬したとき、誠さんがなくてはならないひとだとわかった」
叔母は持っていたカップをゆっくりと受け皿に戻しながら、意外だというように少し目を見開いた。
力が入っていた肩が下がった。
「……そうだったの。皮肉ね。私が二人の仲を取り持ってしまったのね」
叔母の言葉は少し柔らかく、さばさばした口調だった。
義母の言葉にとどめを指されたといった感じだろうか。
どうもがいても太刀打ちできない。
二人の間には入り込むことはできなかったのだとはっきりわかったのだろう。
「ごめんなさい」
義母はすまなさそうに俯いた。
「……誠さんは、姉さんのことがずっと好きだったから」
義母は横に座る高野の叔母に向かって頭を下げながら、もう一度小さくごめんなさいと謝った。
「もう、いいの。二人で東京に出て幸せだったんでしょう?」
「貧乏でしたけれどね」
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