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若い頃を思い出したのか、義母は遠い目をして微笑んだ。
義母の人生も叔母の人生も戦争で狂ってしまったのだ。
戦争で人生が大きく左右されてしまう、そんな人は珍しくないのかもしれない。
そういう時代だったのだから仕方が無いのかもしれないが、周子はそう思いたくなかった。
もし、勇さんに赤紙がこなかったら、シゲと勇さんが一緒になってトミは誠さんとうまくいっていたのかもしれない。
そうしたら、シゲは故郷を離れることなく姉妹も疎遠になることは無かったのだ。
そんな想像をしていた周子は義母の一言にはっとした。
その細めた視線を握り締めていたお手玉に落として、義母はしみじみとこう言ったのだ。
「旭川に来て本当によかった。これで思い残すことは何もないわ」
叔母は硬い顔をして黙ってしまった。
「そんな、お義母さん……」
それ以上の言葉を周子はかけられなかった。
義母の病気のことを思うと、口元をぎゅっと締めて胸に熱いものがこみ上げてくるのをじっと耐えるのが精一杯だった。
涙を堪えていると思われたくなくて、周子は二人の背後のラウンジ壁面に広がる大窓を真っ直ぐに凝視した。
大粒の雪がぽとりぽとりと落ちていくのが見える。
「今日も雪ですね」
そんな言葉しか思いつかなかった。
「そうね。牡丹雪ね」
義母は窓のほうを振り向いて目を細めた。
この雪も見納め。
雪を見つめるその姿は、この雪景色を目に焼き付けているように思えた。
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