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引き継ぐ命
義母の最期はあっけなかった。
旭川への旅行から帰って約一ヵ月後。
桜の蕾が膨らみ始めた頃の夜中に、誰にも看取られることなく突然逝ってしまったのだ。
しかし、その顔は微笑みさえ残し、楽しい夢を見て眠っているような、そんな顔をしていた。
多分、その傍らにはみゆきちゃんが居たに違いない。
周子はそう考えることで少し救われていた。
そんな風に思っていないとあまりにも寂しすぎる最期で、入院を勧めずに自宅にいたことが本当によかったのだろうかと自分を責めてしまいそうだった。
出棺のとき、周子はあのお手玉を義母の手にそっと添えた。
お義母さん、みゆきちゃんと一緒にお手玉を楽しんでね。
微笑むように眠る義母の顔を見ているうちに、周子は涙が止め処もなく溢れてきた。
葬儀の間は何も感じなかったのに、棺に納められている義母の顔を見た途端、周子の中で何かがはじけてしまったのだ。
大往生なんだから、義母は満足して逝ったのだから笑って見送りたいと口角を無理に上げてみても、口元に変に力が入ってしまい口を歪めてしまうだけだった。
目元を押さえていたハンカチがあっという間に濡れていく。
周子の横にいた美雪が、周子の喪服のスカートの裾を硬く掴んでいた。
美雪も肩を揺らし、鼻をすすって泣いていた。
「ママ、おばあちゃんは病気で痛かったの?」
「美雪……」
周子のぼやけた視界に、美雪の泣き顔が映った。
「ううん。おばあちゃんは痛くなかったと思う。最期まで、きっと楽しい夢を見て……娘のみゆきちゃんと一緒に……」
言葉が詰まった。
胸が苦しくなった。
話しているうちに義母が生きていたときのことが次々と思い浮かんできてしまったのだ。
もう耐えられなかった。
周子はその場に屈んで美雪を抱き締め、人目をはばかることなく美雪と一緒に声を上げて泣きじゃくった。
一緒に暮らし始めて、いるのが当たり前の生活になっていた。
部屋のドアを開ければそこにいる。
お義母さんと呼べば静かに応える声がする。
でも、もう返事は返ってこない。
ただいまと帰ってくることはない。
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