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その夜、周子の枕元で囁いた「名前は美雪がいい」というあの声は、夫に訊いてもそんなことを言った覚えはないという。
義母が言うはずもない。
夢でも見たのかもしれないとも思ったが、あれはみゆきちゃんだったのではないか。
夫に話したらそんなことがあるものかと一笑に付された。
美雪は小学生になって、いつの間にか好きな色はピンクではなくなり、人参も食べられるようになった。
幼い時、美雪が長々と一人遊びをしていたのはみゆきちゃんと遊んでいたからかもしれないなどと今になって思う。
美雪は幼くして亡くなったみゆきの亡霊と供に育っていたような気がしてならない。
考えすぎだろうか。
遠藤シゲの娘、みゆきちゃんはもうこの世にはいない。
大好きな母親を自分の居場所へ迎えたのだから。
位牌の中から、お手玉の中に入っていた鈴が焼け残った。
周子はそれを形見に貰って新しく手縫いしたお手玉に入れたのだった。
今、美雪がそのお手玉で遊ぶ。
お手玉の中で、ちりんと澄んだ鈴の音が響いた。
「お母さん」
ママと呼ぶのは赤ちゃんみたいだからと美雪は照れくさそうに言った。
美雪の声がみゆきちゃんの声と重なってきこえた。
みゆきちゃんは今も美雪の中にいるのだ。
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