1人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「別にこれが普通だから。それに、訪問者がいるでしょう。厄介な……」
「来たぞ」
噂をすれば、今日もどかどかと東昇(あずまのぼる)が部屋に入ってきた。
「昇! 勝手に上がりこむな」
アリアはそう言って、慌ててサングラスをかけた。
「良いことだろう、こうやって未然に犯罪を防ぎにきているんだから」
昇はわけのわからない理屈を言うと、食卓テーブルの椅子に座り、アリアからトーストを横取りした。
「あっ、また! ただ朝食をたかりに来たんでしょう!」
アリアは仕方なく柚子から別のトーストをもらった。
「硬いこと言うな」
昇は紅茶までもらい飲んでいた。
「毎日ここへ『出勤』してきて、探偵って暇なのね。あ、暇なのは昇だけかしら。それともさぼり? 刑事は忙しいみたいね、十無は滅多に来ないもの」
「忙しい合間を縫ってきているに決まっているだろう。俺のことを呼び捨てにするな」
昇は柚子をじろりと睨んで文句を言った。
「そういう態度をとるなら、もう鍵は開けてあげない」
「それとこれとは……賑やかな方が食事も美味しいだろう?」
昇はまた無茶苦茶な論理だ。
「そうねえ、昇がいると確かに賑やかね。アリアって無口で、外出しない時は自室に閉じこもっていることが多いから」
柚子は妙に納得した。
「へえ、お前って根暗か」
昇が興味深そうに言った。
「柚子、余計なことは言うな」
アリアは柚子といるとつい何でも話してしまいそうで怖かったのだ。柚子は人の話を聞き出すのがうまい。だからアリアは接触を最小限にするために極力、自分の部屋にいるようにしていた。
「ねえ、昇が来たらアリアも楽しそうよね」
「そんなことはない、毎日煩わしい!」
慌てて否定したが、柚子にそう見られていたのかと思うと、アリアは何故かどきりとした。
毎日がこんな調子で穏やかだった。が、そんな平穏な日々は長くは続かなかった。
真夜中、午前二時過ぎ。ベッドサイドに置いていたアリアの携帯電話が鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!