はじまり

11/12
前へ
/14ページ
次へ
美音は鴉達と別れ、2人が待つ広間へと向かう。 「失礼します」 戸を開けるとすでに朝餉の準備は整っており、2人とも席についていた。 「遅くなってすみません」 「何かあったのか?」 心配そうに幸村が声をかける。 「ちょっとお話をしていて…あの、鴉さんっていうくノ一の方なんだけど…」 幸村知ってる? (知っているも何も…) 先ほど話していたばかりだ。 「鴉に会ったのか…なら丁度いいのう」 (丁度いい?なんの話だろう…) 美音は首を傾げ、ちらりと幸村の方を見る。彼にしては珍しく固い表情だった。 「そう硬くならなくてもよい。わしから一つ提案があるのじゃ」 「提案…?」 「うむ。美音よ、忍を付けてみぬか?」 「忍を…?」 今までそんなことを言われたことなどなく、不思議に思い、美音は少し考えた。 「…鴉さんを…ですね?」 「さすが我が娘じゃ、察しがよい」 機嫌の良い信玄とは対象的に、幸村の機嫌は悪く、それが美音を不安にさせていた。 しかし、信玄は話を続ける。 「美音よ、鴉を見てどう思った?」 「私が今日感じたことは空の瞳、だけです」 「…関わりたくないか?」 「いえ、その逆です」 美音は信玄を真っ直ぐ見つめた。 「空の瞳が戦によって生まれたモノなら、それをなくしていくのも、私の使命だと思っています」 決して何からも逃げないこと。美音がこの世界に来て、平和を目指す上で心に決めたことだった。 そして美音の言葉は、多少違えど、 その意思は信玄と同じものだった。 それに、と美音は続けた。 「過去の事は解らなくても、これから来る未来は変えられる。そう教えてあげたいです」 おこがましいでしょうか。 少し不安そうに信玄に伝える美音。 信玄は首を横に降り、美音の頭を撫でた。 「その気持ちが人々を救う力になる」 鴉も一緒だ。 「では、鴉を忍にしてもよいな?」 「はい」 美音が頷いたその時だった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加