はじまり

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今まで黙っていた幸村が口を開いた。 「お待ち下され、お館様。まだ大切なことを伝えておりませぬ」 いつもより、厳しい顔で美音と信玄を見る。 「む…そうだったな。美音ならば関係ないと言いそうで省いてしまった。」 「あの、大切なこととは…」 いつも以上に真剣な幸村に、気圧されながら、美音は信玄に尋ねた。 「実はな、美音よ。鴉には特殊な力がある。」 「特殊な力…?」 「そうじゃ…鴉の血には毒があり、触れた者は死んでしまう」 幸村が追い打ちをかけるように続ける。 「それだけではありません。鴉はその毒のせいか、はたまたおかげか、痛みを感じません」 あまりのことに言葉をなくす美音。 (血が毒…?痛覚が…無い…?) 「…信じられぬかもしれぬが、誠の事じゃ。」 「そう…ですか…」 (血が毒…怪我をしても手当も出来ない) 「美音」 幸村は美音の手に自分の手を重ねた。 「もし…もし美音が何らかの拍子で鴉の血に触れてしまったら……」 いつもの元気一杯の顔が曇る。 美音には、幸村が心から心配してくれているのがわかった。 「…私なら、大丈夫だよ。幸村も義父上も佐助さんも居てくれるから。」 「しかし…!」 「…鴉さんには私がいるって、言ってあげたい。」 「美音…。」 美音はそれ以上何も言わず、ただ微笑んだ。 それだけで幸村を納得させるには十分だった。 「…某の負けでござるな…。」 「では決まりじゃな」 ーーー 「だってさ」 「……」 部屋の外で話を聞いていた佐助と鴉。 鴉は何も言えず、ただ黙っていた。 困惑していたのだ。 なぜ護衛なのか。 私に何が足りないのか。 (ただ人が殺せるだけの存在でいいのに…) 否。 (人が殺せない我に価値などない) ああ…きっと… (我の力を知らないから…) 側に起きたがるのだ。 珍しいから起きたがるのだ。 そうでも思わなければ納得いかない。 鴉は眩暈がしそうなほど、考えて考えて、そう結論付けた。 「まぁ、俺様は忍隊の長兼旦那の忍をしてるから、これからよろしくね」 佐助に言われ、 「あぁ…よろしく頼む」 と反射的に短く佐助に返す。 その言葉にはやはりなんの感情もなかった。
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