はじまり

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躑躅ヶ崎館。 武田信玄を主とした城であり、その周りには城下町が広がっている。 すでに日は沈み、夜が深まっている。 ほとんどの部屋から灯りが消えていたが、ある一室は蝋燭の火が部屋を照らしていた。 佐助は迷わずその部屋の前に降り立った。 鴉もそれに続く。 すると、部屋の中から声がした。 「…佐助か」 「はっ。ただいま戻りました」 障子戸を開けて出てきたのは、浴衣に身を包んだこの城の主であった。 「…そちらの者は一体何者だ」 信玄は鴉を見て佐助に問う。 佐助はさっきまでの出来事を事細かに説明した。 「血に毒をのう…」 信玄はあごに手をやり、鴉を見た。 「いかがいたしましょう」 この場で殺すか、武田の軍に引き入れるか。 「そうじゃな…。鴉、と言ったかのう…お主の望みはなんじゃ?」 表を上げて答えよ。 信玄の問いに、鴉は、 「我を使ってくれることです」 と、まっすぐ信玄を見て答えた。 「戦で、か?」 「戦でも暗殺でも…殺しならなんでも」 「ふむ…」 しばらく信玄は考えて、それからこう言った。 「…武田軍への入隊を許可しよう」 「大将、本当にいいんですか?」 信玄のことばに1番に反応したのは佐助だった。 「なんじゃ、佐助。わしの決定に不満があるのか?」 「不満というかなんというか…その…」 「なに、心配するな。わしにもちゃんと考えがある。それにいざとなればお前がなんとかしてくれるだろう?」 不敵に笑う信玄に何も言えなくなる佐助。 「今日はもう遅い。佐助も鴉もゆっくり休め」 「…はっ」 「ありがとうございます」 そう言うと信玄は自室へと戻って行った。 「こっち…ついて来て」 案内されたのは館の端の部屋だった。 「今日からこの部屋使って」 「わかった」 「明日は旦那にお通しするから」 そのつもりで。 そういい残して消える佐助。消えた後には、傷薬が置いてあった。 (おかしな奴だ) 疑っている者に薬とは。 そう思いつつも、鴉は有難く使わせてもらうことにした。 包帯を取るとすでに傷は塞がっていた。 薬を塗り終わると、鴉は部屋に横になり目を閉じた。
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