はじまり

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早朝。 鴉は佐助に連れられ真田幸村の元へと向かった。 幸村は鍛錬場にいた。 早朝というのともあり、鍛錬場には幸村1人だ。 「お主か…昨日来た忍というのは…」 佐助の報告で事前に鴉の存在を知っていた幸村は、鍛錬の腕を止め鴉を見た。 (なんと変わった色の瞳だ…) 吸い込まれそうになるほどの深い紫の瞳。 しかし、その瞳には何の感情もない。 「はい。お初目にかかります。鴉と言います。今日から武田軍に仕えることとなりました」 淡々と繰り出される言葉に幸村は眉間にシワを寄せる。 「…お主はなぜ、武田に来ようと思ったのだ?」 「特に理由はございませ ん。我の望みはただ一つ、我を使ってくれる者を探していただけです」 そしてこの地に賭けてみたのです。 鴉の言葉に幸村の眉間のシワはさらに深くなる。 「…別にこの地でなくても良かったのではないか?」 「いいえ。最初は良くても次第に我の能力に恐れをなしていきました」 「某ならお主に恐れを抱かぬと…」 「はい」 (確かに恐れを抱いたことなどないが…) 否、と幸村は考える。 (美音を失うことは…) 武田信玄の1番の部下であり、上田城の当主である真田幸村。 彼が恐れるのは、恋人である美音の死だけだ。 「そういえば、お主には何やら珍しい能力があるのだな?」 「はい。私の血に触れたものは命を落とします。その血のおかげで、私に毒は効きません。それに痛みもわかりません」 「痛みが…?」 「はい。なぜかはわかりませんが…」 佐助は血の毒と引き換えに得たものだと考えていた。 「そうか…其方のことは我一人では決められぬ。後でまたお館様と相談しておこう」 下がって良いぞ。 幸村は言うと再び鍛錬に戻った。 「…鴉、行くよ」 「御意」 自分の仕事が決まらぬことに少しばかり苛立ちを感じた鴉だったが、こればかりはどうしようもない。 (早く…戦場へ…) 血に飢えた獣のように、その目は光っていた。 それをみた佐助は、やれやれとため息をついた。
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