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夕暮れに飲み込まれていく校舎に、授業終了のチャイムが隅々まで響き渡っていく。
部活に向かう生徒や談笑する生徒、多くの生徒で賑わう昇降口で靴を履き替え、八嶋里花もその雑踏に交わりながら校舎を後にした。
真っ直ぐ校門に向かうつもりで、昇降口を出た瞬間だった。
「なぁ、八嶋」
聞き覚えのある男子の声。自然と声のしたほうに体を向けると、クラスメイトの男子が立っていた。
「あ……杉本くん」
「わり、呼び止めて」
杉本竜介(すぎもと・りゅうすけ)は片手でごめんと謝りながら傍に寄った。
そして自分のカバンに手を突っ込むと、手紙を取り出した。宛名は『八嶋へ』。
「これ、読んでもらえる?」
「……え?」
「俺の気持ち。口じゃ上手く言えないから手紙にしたんだ。返事、待ってるから」
「わ、私なんかに? でも……」
「まず受け取ってくれ、他の奴に見られる」
差し出されたラブレターに困惑していると、杉本は手紙を押し付けるように渡した。
里花は戸惑いながらもおずおずと受け取る。その際、指先が微かに杉本の手に当たった。
「あ…と、とにかく、返事はいつでも良いから。じゃあなっ」
「う、うん…じゃあね……」
お互い、照れ臭くて顔が赤くなっていた。
走り去って行く杉本の背中が見えなくなるまで、里花はその場に立ち尽くしていた。
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