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手紙を自分のバッグにしまい、里花は校門に向かって歩き始めた。
歩きながらも、里花の頭は手紙と杉本の事でいっぱいだった。
生まれて初めてラブレターを貰った事が嬉しいものの、反面、重大な責任を預けられたような気がして気が重い。正直、単に困っていた。
先程受け取る時に彼の手に僅かに触れた、自分の指先を握り締める。クラスメイトの異性に触れたのは初めてだった。それが告白してきた相手なら、尚更恥ずかしい。
「っ……」
再び顔に熱が昇ってくる。
もはや学校の敷地に居る事すら恥ずかしくなってきて、早歩きで校門に向かって行った。
「よ、里花」
「っ!」
そんな心理状態で声を掛けられれば、自然と驚いた顔で相手を見てしまうだろう。
顔を向けた相手は、里花の顔を見て小さく笑った。
「はは、何赤い顔でビックリしてんだ?」
「……兄さん」
「おぅ、迎えに来た」
校門の所に、兄の正輝が立っていた。
着崩したスーツのポケットに手を突っ込んで、片手を軽く上げる。
通り過ぎる生徒は、皆一様に興味深そうに2人を見ては去って行く。
「もう……車の中で待ってても良いのに」
「良いじゃねぇか、たまには母校の校舎を眺めたって」
「たまには、って……ほとんど毎日見てるじゃん」
朝夕の送り迎えをしてくれる正輝は、必然的に校舎を見ている。その上、働いている職場は学校の目と鼻の先だ。仕事の始まる時間と終わる時間は、丁度学校と同じ。送り迎えには最適なのだ。
「細かい事は良いんだよ。まず乗れや」
里花の言葉を意に介さず、正輝は助手席のドアを開けた。
「うん」
助手席に乗るのはいつもの事で、里花は慣れた様子で車に乗り込む。
ドアを外から閉めた後、正輝も運転席に乗り込んだ。
初心者マークを付けたその車を走らせた直後、思い出したように口を開いた。
「そういや、今日も母さんは夕方から仕事だから、夕飯は適当に済ませてくれってよ」
「そうなんだ……今日は何作ろうか? あ、昨日のシチューが余ってたからグラタンなんてどう?」
「お、良いねぇ。買い物は?」
「家にある材料でなんとかするよ」
「はいよ。楽しみだなー、里花の手料理」
「ふふ、いつも食べてるじゃん」
「良いだろ、楽しみにしたって……今日は母さんも居ないから尚更そうだし……」
「えっ?」
「いや、何でもねぇよ」
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