兄 × 妹

5/10
前へ
/10ページ
次へ
2人の日課は、家に着いてから一緒にお茶する事だ。たまにはカフェに行ったりする事もあるが、ほとんど家でするほうが多い。 リビングのソファーに並んで腰掛けて、お互いに今日1日を過ごした感想を言い合うのだった。 「……でさ、その上司が俺の事やたら扱き使うわけよ。まだ完全にその仕事覚えきってねぇから大変でさー」 「そうなんだ。でも、それは兄さんを信頼してるから頼むんじゃないの?」 「かもしんねぇけど、俺はまだまだパシリってとこかな。新卒ぺーぺーだからなぁ」 自嘲気味に笑う正輝と、励ますように言葉を掛ける里花。最近の兄妹にしては珍しいと、近所でも評判の仲の良さだ。 「で、俺の1日の様子は以上。お前はどうだった?」 「私は、身体測定があったよ。去年より3センチ伸びてた」 「なんだ、たった3センチか。俺がサッカー部だった頃は年に7センチは伸びてたぜ。3センチ伸びたくらいで喜ぶなって」 「むぅ……良いもん、念願の150センチ越えしたから」 正輝は中学と高校の部活がサッカー部だった。熱心に励む姿勢と、頼れる性格を見込まれてキャプテンを務めた事もある。学校中の女子の憧れだった。ラブレターだっていくつ貰ったか分からないが、里花の記憶では、それらは全部読まずに捨てられていた。 快活な兄とは対照的に、妹の里花は内気だった。家の中で読書をしたり絵を描いたりするほうが好きで、それ以上に母の手伝いをするのが好きだった。 「他には? クラスの奴らに悪い事されたりしてねぇだろうな?」 「されてないよ。もう、兄さんはいつもそれ聞くよね」 「なんだよ、心配しちゃわりぃかよ。お前、ちっちゃい頃から人に流されやすい傾向あるからな」 そんな内気な引っ込み思案の里花が、正輝にとって幼い頃から心配の種だった。 公園に行けば、いつも里花に合わせて隠れんぼや遊具で遊んだものだった。隠れんぼの途中、里花が自分を見付けられなくて泣き出しそうになったりすると、わざと物陰から出てきて見付かってあげた。里花が自分を見付けてはしゃいでいるのを見ていると一緒に嬉しくなった。 里花を守る兄貴になろう。子供の頃にそう誓った。 里花しか見えなくなったのは、中学の時。サッカーで頑張ったのは、里花に見て貰いたかったからだ。 里花に自分を特別な存在として見て貰いたくなったのは、高校に入った頃。他の女子など、眼中になかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加