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「あ、それからね」
里花の声に、正輝はハッと我に帰った。いつの間にか軽く物思いに入っていたらしい。
「あ……ああ、何だ?」
「お母さんにはまだ言わないでね? 兄さんに先に教えちゃうね」
「ああ、分かった。母さんには内緒、な?」
正輝にとって、ある意味一番嬉しい事だった。少しでも嬉しい事があると、母には秘密で自分にだけ教えてくれる里花の癖。
里花にとっても、正輝はいつでも自分の味方でいてくれる存在だ。守ってくれるし、支えてくれる。自分でも甘えている自覚はあるが、どうしても頼ってしまう。
正輝は里花に頼られる事が何より嬉しくて、里花も正輝に甘える事が心地よかった。
信頼しているからこそ、一番最初に伝えたかったのだ。
「実はね……人生で初めて、これ貰ったの」
カバンから取り出したのは、一通の手紙。宛名は『八嶋へ』。
見せられた正輝は、ほんの一瞬目を見開いた。
自分も過去に何度か貰った事があるから、一目で分かった。
「…………ラブレター?」
震えを抑えた声で、正輝は返した。
「うん、そうみたい」
兄の様子を知らないまま、里花は頷いた。
「……さっき、昇降口でお前を呼び止めた奴か?」
「うん、同じクラスの杉本くん……あ…?」
何気なく答えた里花だったが、ふと何かが引っ掛かった。
先程正輝が立っていた校門から昇降口までは一直線だ。しかし、いくらなんでもあの生徒でごった返している中で自分の姿を見付けられるだろうか? ましてや、手紙を渡されているところが見えたりするだろうか?
そして、最大の疑問は…………手紙を受け取った事を知りながら、何故今までその話題に触れなかった?
「お前、それどうするつもりだ?」
「えっ?」
どうするつもりと言われたものの、こういう物のセオリーといえば1つしかない。
「読んでから、返事しようか――」
「やめろよ!!」
急に立ち上がった正輝が怒鳴りつけると同時に、コーヒーカップが甲高い音を立てて割れた。
「っ!」
里花はビクッと身を縮ませる。
兄に怒られる事など今までなかったから、この上なく驚いた。
「……里花…そんなの許さねぇから……」
「…っ……」
立って自分を見下ろしながら、呟くように正輝は言った。
本人は優しく言っているつもりなのかもしれない。しかし、怒鳴られた里花にとってはその言葉すら恐怖だった。許さない、と言われてしまえば尚更だ。
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