17人が本棚に入れています
本棚に追加
「返事、って…何て返すんだ? お前の事だから、きっと『ありがとうございます』って返すんだろうなぁ……『ありがとうございます』って事は、手紙を貰って嬉しいって事だろ…男から手紙を貰って嬉しい……つまり、1人の異性として受け入れるって事だよなぁ…?」
何かが溢れ返ったように言葉を紡ぎながら、正輝はゆっくりと近付いてくる。
「他の男に…そうやって、可愛い顔で笑って…可愛い声で…甘えるんだろ…?」
「っ……っ…」
「そんなの、嫌だ……里花が頼るのは…甘えるのは…俺だけで良いんだ……」
囁くような、呟くような、縋るような声で、正輝は言う。
里花は、ただ恐ろしくて仕方が無い。ソファーの一番端に身を寄せて、腕で自分を庇うようにして身を竦ませていた。
目の前に居るのは、いつもの兄ではない。
2、3歩歩けば容易く隣に来れる距離に居ながら、正輝はまるで追い詰めるかのようにゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。
「里花……里花ぁ……俺、こんなに…こんなに…お前の事想ってんのに…」
「っ!」
その時、目が合った。
口元は僅かに笑っているが、目は笑ってなどいなかった。
簡単に言えば、吹っ切れたような目をしていた。
色んな感情が混ざり過ぎて、どうでも良くなった目。その微妙に焦点の合わない目で、怯える里花を見ていた。
「里花…それ、寄こしな…?」
ゆっくりと、手が伸びてくる。
里花の、手へと。
手紙を持っている、手へと。
「あ……」
怯えているうちに抜き取られてしまったが、取り戻そうとする気は、里花にはなかった。
完全に正輝の雰囲気に呑まれていた。
「……要らないよな、こんなの」
はっきりとした声で、そう言った瞬間だった。
ビリッ、と手紙が引き裂かれた。
「っ!」
「…こんな物、こんな物…!」
忌々しい物に八つ当たりするかのように、何度も細かく、細かく破いていく。
やがて手紙はただの紙屑となって、床の上に散らばった。
「…………」
「…………」
沈黙が流れる。
ただ、ただ、里花は震えていた。
今までこんな兄の姿を見た事がなかった上に、自分に対する想いが狂気じみている事が何より恐ろしかった。
正輝は自分の事をただの甘ったれた妹だと思っているとばかり、今まで思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!