兄 × 妹

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「返事、って…何て返すんだ? お前の事だから、きっと『ありがとうございます』って返すんだろうなぁ……『ありがとうございます』って事は、手紙を貰って嬉しいって事だろ…男から手紙を貰って嬉しい……つまり、1人の異性として受け入れるって事だよなぁ…?」 何かが溢れ返ったように言葉を紡ぎながら、正輝はゆっくりと近付いてくる。 「他の男に…そうやって、可愛い顔で笑って…可愛い声で…甘えるんだろ…?」 「っ……っ…」 「そんなの、嫌だ……里花が頼るのは…甘えるのは…俺だけで良いんだ……」 囁くような、呟くような、縋るような声で、正輝は言う。 里花は、ただ恐ろしくて仕方が無い。ソファーの一番端に身を寄せて、腕で自分を庇うようにして身を竦ませていた。 目の前に居るのは、いつもの兄ではない。 2、3歩歩けば容易く隣に来れる距離に居ながら、正輝はまるで追い詰めるかのようにゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。 「里花……里花ぁ……俺、こんなに…こんなに…お前の事想ってんのに…」 「っ!」 その時、目が合った。 口元は僅かに笑っているが、目は笑ってなどいなかった。 簡単に言えば、吹っ切れたような目をしていた。 色んな感情が混ざり過ぎて、どうでも良くなった目。その微妙に焦点の合わない目で、怯える里花を見ていた。 「里花…それ、寄こしな…?」 ゆっくりと、手が伸びてくる。 里花の、手へと。 手紙を持っている、手へと。 「あ……」 怯えているうちに抜き取られてしまったが、取り戻そうとする気は、里花にはなかった。 完全に正輝の雰囲気に呑まれていた。 「……要らないよな、こんなの」 はっきりとした声で、そう言った瞬間だった。 ビリッ、と手紙が引き裂かれた。 「っ!」 「…こんな物、こんな物…!」 忌々しい物に八つ当たりするかのように、何度も細かく、細かく破いていく。 やがて手紙はただの紙屑となって、床の上に散らばった。 「…………」 「…………」 沈黙が流れる。 ただ、ただ、里花は震えていた。 今までこんな兄の姿を見た事がなかった上に、自分に対する想いが狂気じみている事が何より恐ろしかった。 正輝は自分の事をただの甘ったれた妹だと思っているとばかり、今まで思っていた。
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