Ⅰ 世界が創られた音

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愚かな人類に対する宣誓を済ませた彼女はふっと息を吐いた。その時、彼女の背後から咳き込む声が聞こえた。「だれ?」と彼女が言って振り向くと、そこには扉に手をかけたまま咳き込む少女の姿があった。 少女は瞼を開閉しながら「ミークシェハード……」と彼女の名を呼んだ。 「こちらの準備は整った……」 「……それは完璧という意味でかしら?」 彼女の責めるような口調に、少女は表情を引き締めると静かな声で話した。 「いや、三人……取り逃がした」 「あらあら」と困った顔を浮かべながら彼女ーーミークシェハードが振り返る。そして、少女と視線を交わしながら優雅に歩みを進めた。一歩一歩、歩みを進めるたび、独立した影が踊るように形を曲げる。そんなとても理解しがたい影を堂々と踏み締める彼女が放つ、不思議な存在感に少女は瞼を細める。 少女はこの存在を忌避していた。出会ったら即座に殺してしまわねばならないと思うほどに……。少女と彼女は協力関係にあるが、それは現時点ではの話である。互いの利益が一致しなければ、協力しあうことは無かった関係なのだ。 わずかに警戒している少女に彼女は薄く笑いかけた。 「そんなに気にしないでいいわ。あくまで協力者である貴女に、そこまで強いる気はないから」 「……」 すると少女は不思議なことに納得のいかない表情をした。それを見たミークシェハードが愉快そうに笑う。 「私の計画は役者が最低限揃えばいいの……それにあの三人でしょ? 何も問題はないわ」 そう断じる彼女の足元をゆらゆらと這い回っていた影が少女の影と接触しようとしたが、少女が足を払うとボロボロと崩れさった。彼女は身をよじるかのように丸まる影を見て「あらぁ? だからダメだっていったのにぃ」と子供を諭すような口調であやすと、また少女に視線を戻した。 「……そろそろ貴女も、準備に取りかかったらどぉ? 此処でずっと睨み合いを続けても、私たちに利は無いでしょ?」 少女はしばらく考え込むように顔を伏せると、踵を返して聖堂から出ていった。茜色の太陽のような髪を揺らめかせながら去っていった少女に、彼女は微笑むと天蓋を見上げた。
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