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そこにはとてつもなく巨大な絵画が描かれていた。家屋の約三倍はあるであろう巨大な人間が太陽に向かって手を伸ばしており、それを戒めるかのように、文字の刻まれた鎖が人間に絡み付いてその動きを抑制している。
まるでイカロスのようだと、彼女は思った。だがこの人間はイカロスではない、とも思った。
かつてイカロスは自身を閉じ込める物から脱け出すために空を目指した。その果てに太陽を愛し、太陽に殺された。でもこの絵は違う。ここに描かれている人間は確かに太陽に手を伸ばしてはいるが、男の表情はとても納得いかないという顔をしている。何故ならば、男が手を伸ばしている太陽は、男が手にするにはあまりにも小さかったからだ。加えて男の手は少しも焼かれていない。この画が意味するのはまだ見ぬ光に対する期待、失望、羨望、そして……欲望だろうか? だとしたらあの鎖は一体何を暗示しているのだろうか……と、そこまで考えた彼女は絵画から視線を外し、頭を振った。
考えても意味がない、そう思った彼女はステンドグラスに指を指した。すると、ストラスブール風のステンドグラスがまるで万華鏡のようにクルクルと回り、その画を変えていく。
やがてガチッ、と何かが填まる音がしてその変化が止まった。
彼女が視線を上げた先に写っていたのは一人の少女だった……いや、ステンドグラスに描かれた少女と言うべきか。先ほどまでのストラスブール風の絵とは一変して、一人の少女がモノクロ風に描かれていた。
ミークシェハードはそれを見て満足げな笑みを溢すと、何かを捧げるように言葉を紡いだ。
「やっぱり……貴女が始まりの役目を負うのね。ふふふ、果たしてこれ以上の適任がいるかしら? いいえ、そんなの居やしないわ」
そう言い、彼女は自身のぽっかり開いた穴を見て寂しげに呟く。彼女のその感情に呼応するかのように、突然、聖堂全体が轟音をたてて揺れ始めた。揺れは次第に大きくなり、聖堂を暴虐的なまでの力で崩落させていく。
「貴女なら……きっと、見つけられるはず……。私が無くした全てを……、彼女たちに与えられるはずだった救いを……。ねえ……そう思うでしょ? リイカ……」
崩れ落ちる聖堂の中、彼女は何処とも知れぬ場所へ一心に祈り続けた。やがて、彼女の体から光が溢れだし、聖堂全体を覆った……。
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