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「穂泉さん……」
私は立ち尽くしている彼女に、できるだけ柔らかい口調で声をかけた。
事件は解決していない。
真相はまだ私たちには見えていない。
それは確実だった。
「もう十分だよ、ありがとう」と連城刑事が近づいてくる。
「後は僕たちに任せてくれればいい。彼女が大坪静香を殺害したことは間違いないのだから。正当防衛というのだって、悪あがきの出任せに違いないさ」
そうかもしれない。
でも、まだその奥に潜んでいる何かがある。
私にだってそれくらいは分かる。
「さあ帰ろう。どこまで送ればいいかな。キミたちは電車なんだろう?」
連城刑事が先に立って歩き始めた。
私たちもその後に続く。
「連城刑事」
穂泉さんが、多岐川亜美の消えていった方を見続けながら言った。
「彼女の話は本当かもしれません」
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