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程なくして連城刑事が戻ってきた。
私たちは、まだ明かりのついているエレベーターホールに出る。
「──さっきの話の続きですが」
穂泉さんが切り出す。
「現金の授受については警察は、多岐川亜美が大坪さんから現金を巻きあげていた、と考えているわけですね」
「もちろんだ。見るからに、お金を必要としているのは多岐川亜美の方だろう?」
「でも、それはおかしくはないですか」
上がってきたエレベーターに乗り込みながら穂泉さんが言う。
「どうして?」と私。
連城刑事が地階のボタンを押すと、ゴンドラが小さく振動して降下を始めた。
「もしそうであれば、多岐川亜美にとって大坪さんを殺すことはマイナスじゃない」
指がぴんと立っている。
──確かにそうだ。
言葉は悪いが、いわゆる「金ヅル」を自ら放棄してしまうことに外ならない。
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