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8月5日
猛暑のなか空蝉に紛れて、父が他界したとの知らせを聞いた
俺は三の時に祖母を失い
六で妹を失った
七で祖父、八にいとこと叔父とその奥さんを
しかも全員状態不明の病によって、衰弱し、老衰のように死んでいった
父は俺が十になる前に出て行ってしまった
十二で母も死んだ
十四、母が死んでから俺の世話をしてくれていた母の友達も他界
それからまもなくその人の夫も衰弱。去年死亡
そして今日。十七、父が死んだとの知らせ
8月8日
終わりを知らない猛暑が頭上から照りつけるまっ昼間の中
俺は式場にやってきた
式場に入った瞬間甘ったるい花の香りと冷え切った空気が体に張り付く。
頭が朦朧として。汗が落ちた。
だめだ、しっかりしなくては。
少し歩くと奥には父の顔らしき写真が花達と共に飾られている。
実を言うと父の顔などほとんど覚えていなかったのだ。
写真を少し眺めた後。ある異変に気づく・・・。
「・・・・・?」
あたりを見回すが死体が入っているはずの棺桶が見当たらない。
死体は・・・
すると隣にいた貴婦人から声がかかる
「あなた・・・息子さんね?」
「あ、はい。この度は父のために・・・」
俺は一応しなくてはならないであろう挨拶をしようとするが
「そんな堅苦しくしなくてもいいのよ」と、挨拶を止められてしまう
「遺体がないのに気づいたかしら?」
「はい・・・あの、父の遺体は・・・?」
「・・・貴方のお父さん、研究所の謎の爆発事故に巻き込まれて、
跡形もなく吹き飛んでしまったみたい。」
「・・・・跡形もなく・・・」
そしてちょっといいにくそうに言った。
「右腕だけあるのだけれど・・・・みます?」
俺はそれを丁重にお断りした
幾度も葬式を経験して遺体には少しは免疫ができてるとはいうものの
やはり死んでしまっている肉体などなれるはずも無く。
ましては顔も覚えてはいないとはいえ父親、しかも右腕だけ。
そんなもの、見る勇気など一介の男子高校生にはないのであった
これで面識のある血縁は全て他界してしまった・・・と思われる。
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