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電車を見下ろす歩道橋の上に俺と彼女がいる。
彼女の後ろには、橙に染まる空。
俺はゆっくり彼女の顔に近づいた。彼女の唇に自分の唇を合わせようとした。
「…キスしたくない」
顔を背けて俺の目を見ずに言った。
だから俺は、彼女の額に、首に、手の甲に、耳に、鼻に、沢山キスをした。唇は許してくれない彼女の身体に、沢山キスをした。彼女の反応を伺いながら、俺も楽しみながら。
「ねぇ、やっぱり、キスして?」
上目遣いにお願いする君に、心が弾んだ。
「どこにして欲しいの?」
…。
ん…?
目の前が真っ暗だ。
目を閉じてる…?俺は、横になってる。
…これは、夢?
なるほど。
夢ね。なら夢の続きを…。だって、もうすぐ唇にキス。
目を閉じたまま、君とキスする映像を思い浮かべる。あの、柔らかい唇。あの、抱きしめたときの安心感。
もう、何ヵ月も会っていない。触れてない。
寂しいな。
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