1

3/10
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
*** 電車を見下ろす歩道橋の上に俺と彼女がいる。 彼女の後ろには、橙に染まる空。 俺はゆっくり彼女の顔に近づいた。彼女の唇に自分の唇を合わせようとした。 「…キスしたくない」 顔を背けて俺の目を見ずに言った。 だから俺は、彼女の額に、首に、手の甲に、耳に、鼻に、沢山キスをした。唇は許してくれない彼女の身体に、沢山キスをした。彼女の反応を伺いながら、俺も楽しみながら。 「ねぇ、やっぱり、キスして?」 上目遣いにお願いする君に、心が弾んだ。 「どこにして欲しいの?」 …。 ん…? 目の前が真っ暗だ。 目を閉じてる…?俺は、横になってる。 …これは、夢? なるほど。 夢ね。なら夢の続きを…。だって、もうすぐ唇にキス。 目を閉じたまま、君とキスする映像を思い浮かべる。あの、柔らかい唇。あの、抱きしめたときの安心感。 もう、何ヵ月も会っていない。触れてない。 寂しいな。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!