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国立クァッド=オクト連合研究学院付属学生寮、そこが俺の現在の住居だ。
寮という呼び方がダサいからドミトリー、なんて『友の言葉』で呼ぶ仲間も多いが、言葉にナウいもフルいもダサいもトカいもないと思う。
都会っぽいから格好良いとか外語だからクールだとか、逆に田舎っぽいからみすぼらしいとか母語だからチープだとか、そんなことどうだって良いだろう? それを使って生活してる人がいるんだから。
とにかく俺は寮と呼んでいる。音が短いし、よほどのことがなければ聞き違いもないだろう。
定刻に起きて、食堂で代わり映えしない朝食を摂り、制服に身を包んで学友と共に通学路を歩くのは、もう二年以上繰り返した日常だった。
しかしながら、この朝はいつものそれとは大きく異なっていた。俺達最終学年の最後の課題、半年に及ぶ卒業試験の幕開けだからだ。
「いよいよだな、アル」
俺の隣を歩く金髪の友人、フィルが言った。その声にはこの学院に初めて足を踏み入れる新入生のような期待と不安が伺えた。
こいつが入学式の時にどんな感じだったかは全く知らないが。寮の部屋がすぐ近くだからその日どこかですれ違っていたかも知れないが、その時はまだお互いの名前も知らない状態だったからな。
俺はそうだな、と生返事をして、目の前にそびえる壁を見上げた。俺達が通う国立クァッド=オクト連合研究学院、通称アカデミーを囲う城壁である。
このご時世に一体何から守っているんだ、と疑いたくなるくらい高い。十五メートルはあるという話だ。
「で、アルを担当する魔術師ってどんな人なんだ?」
アルというのは俺の名前、もといあだ名だ。別の言葉に聞き違えるから出来れば本名で呼んで欲しいのだが、そっちの方は呼びづらいということで却下されている。
「要望とは違ったんだけど……まあ、かなり高位の魔術師らしい。フィルは?」
「俺ぁあんま成績良くねーから貧乏くじだな。聞いたこともねー協会の所属だとよ」
「まあがんばれよ、って言っておく」
「あんがとよ」
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