序章

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 ――魔術師。有史以来存在してきた彼らは、今やこの世界にとって必要不可欠な存在となっている。具体的には、先の大戦以来だ。  魔術師とは別にもう一つ、科学や機械で発展してきた文明があった。木材や石油などの自然を食い物にしてきたこの文明は、人類の生活を豊かにし、確実に人口を増やしていった。  しかしその一方で魔術師には嫌われていて、その戦争もその二者の対立だった。  二十年ほど続いた戦争が終わった時、機械文明の前提である油や木材は世界を再建するには不十分な量しか残されていなかった。理由はどうやら戦争が終わるきっかけになった大規模な地盤沈下や火山の噴火にあるらしい。  そこで手を取り合った両陣営は、魔法という人類が存続する限り枯渇しない資源を機械を動かすために使えないか、と考えた。数年の研究の後その試みは実を結び、人類の復興に大きく貢献した。それ故に、魔術師は誰よりも敬われる存在となった。  その功績は多岐にわたる。例えば、壁の根本にあるアカデミーの入り口に集まっている制服の若者達が手にしている学生証。その中には解析不可能な魔法が組み込まれていて、許可された者しか入れないようになっている。  壁には人一人が通れる白い扉が五つ、それぞれの横に黒い端末があり、そこに学生証をかざすと扉が開く仕組みだ。しかも本人でないと開かない、つまり盗んだものでは無効だというから魔法の力というのは恐ろしくもある。  そしてそういう非常時のために衛兵が常駐しているが、いつ見ても暇そうだ。実際暇なんだろうが。  石造りの厚い壁をくぐり抜けると、そこはアカデミーの敷地。およそ学園とは思えない花畑が広がっている。校門からは煉瓦の大通りが延び、一世代前の様式で建築された校舎がそびえている。  フィルと合流してそこをだらだらと歩いていたのだが、目の前に見覚えのある姿を見つけ、悪い、と一言フィルに声をかけて小走りでその人影に近づいていく。 「エル!」
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