9人が本棚に入れています
本棚に追加
後ろ姿だが見間違えるはずはない。透き通るようなセミロングの銀髪、俺達とは違う緑の制服、背中に桃色の羽が生えた白猫を引き連れた生徒と言ったら彼女しかいない。エルは振り返るなり鋭い目でこちらをにらみつけてきた。
「エル? 今日は機嫌悪そうだな」
一瞬後ずさりして俺がそう言うと、エルは喋る虫でも見つけたかのように目を見開いて俺から目を逸らした。いや俺、ただ声をかけただけなんだが。
「あの、クリムさん?」
何やら相当お怒りのようなので、敢えて苗字で呼んでみる。
「べ、別に、何でもないから! おはようアル!」
「お、おはよう……語尾に俺の名前つけるとギャグみたいアル」
「ホワット?」
「何でもない。まあ怒ってるんじゃないんだな」
「まあね。ちょっと考え事してた」
「ひょっとして朝からそんな顔してるから今日は一人で登校してんのか」
エルはその若さにも関わらず真っ白な髪の持ち主であるから、アカデミーの中でも非常に目立つ存在だ。しかも成績上位と来てる。
さらにつり上がった大きな目とその存在感を強調する長いまつげ、鮮やかで肉付きが良く引き締まった唇、古典芸術そのままの美しい輪郭などなど、怒った顔も魅力的に見えてしまうほどの美少女と来た。
学内外を問わず、常に数人の学友を引き連れているのだから彼女の人気の高さが伺える。
家ぐるみのつきあいがある幼なじみという関係を利用しても(物理的に)近づきがたい存在、それがこのエルことアクアレールという女生徒なのだ。
「ああそうか、声をかけるとみんな逃げていったのはそういうこと」
「気付けよその時点で」
「そうね、らしくないミスだわ」
「お前も卒業試験のことで頭がいっぱいなのか?」
「そんなところ。『も』ってことは、アルも?」
「いいや、別に俺はそんなに気にしてない。希望してた軍隊所属の人じゃなかったけど、警察と提携結んでる魔術師だから、まあ満足かなって感じだ」
最初のコメントを投稿しよう!