転機

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「おお、君達が見学に来ると言っていた噂の中学生か。栄美の監督を務めている野村だ。少しでもこのチームの雰囲気を感じ取ってぜひともうちの高校に入ってくれ」  目の奥はサングラスで見えないがいかにも監督というオーラを出している。 だが見た目とは裏腹に優しい物腰で話している。 俺らも帽子をとってよろしくお願いします、とだけあいさつすると監督はまた他の選手を見に行ってしまった。 キャッチボールを終えるとスカウトの阿部さんに手招きをされたので走って向かう。 「今からブルペンが少し空くみたいだからぜひとも成瀬君に投げていってもらいたい」  その言葉に成瀬は表情に出してはいないが右腕を回してやる気を表した。 俺も仕方なくついていく。 ブルペンにはプレートが三つあり今は一つしか使われていない。 その一つには身長が170弱くらいの細身の先輩であろう選手が投げ込みをしていた。 「じゃあ軽く立ち投げしててくれ。キャッチャーを連れてくる」  俺らも真ん中のマウンドを開けてブルペンに入る。 一応横にいるキャッチャーの人にも挨拶をして立ち投げを始めた。 先輩とやるのは少し緊張するが成瀬は気にもしていないようだ。 立ち投げを始めて5分。 阿部さんと一緒に来たのは監督だった。 「監督が実際に受けてみたいとのことだ。いいかな?」  と成瀬に聞くと本人は無言で頷いた。 監督がマスクだけかぶり座る。 これだけの動作なのに監督はキャッチャー出身だということがわかった。 成瀬はワインドアップのモーションに入る。 ゆったりとした大きく綺麗な投球フォームから放たれたボールは大きな風切り音と共にミットの中に吸い込まれた。 ミットに入るとその爆発音がグランド全体に響き渡る。 「133キロ……」  いつの間にかスピードガンを持っていた阿部さんがポツリとつぶやいた。 その後も何球か続け変化球も交えて30球ほど投げると監督が立ち上がった。
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