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【Thorn・Brat(バラガキ)】
「アチィ・・。」
浅葱色の羽織の袖をバサバサと振りながら
原田は酷く不機嫌そうに呟く。
「・・確かに京都の夏は
我々には少し厳しいですね。」
原田の隣で斎藤が少し口元を歪ませるが
彼の表情は全く暑さなど感じていないような涼しいものだった。
「こんなじめじめした中、
見回りなんてついてないなぁ・・」
ふぅとため息をつきながら
沖田は自分の手で額の汗を拭い、
雲間に隠れた月を見上げて目を細める。
「だいたいこの羽織もなぁ。
・・・・カッコ悪いんだよ。」
原田は浅葱色の羽織を指でつまみながら
下唇を少し突き出してブツクサと文句をいう。
「・・原田さん、
とても似合ってますよ?」
斎藤は晒の上にサラリと羽織を纏う彼に目を向けて
まるで風のように爽やかに微笑む。
「そうかぁ?ハジメの方が似合うぜ?」
原田はこのうだる様な暑さの中、
汗一つ掻いていない斉藤の羽織を指で突く。
「まぁ、私が一番ですけどね。」
沖田は二人の会話を聞きながら
大きな愛らしい瞳をくるくるさせて
「・・ねぇ。土方さん?」
黙って後ろを歩く土方に声を掛け
サラリ。と細くて長い髪の毛を揺らして
ニッコリと首を傾げて笑う。
「お前ら見回り中だぞ。」
じめじめとした熱帯夜のなか、
緊張感のかけらもない三人に土方はため息を漏らす。
今や、
『新撰組』の名は京洛で鳴り響いている。
・・いい意味でも、
悪い意味でも。
京都で『新撰組』と言えば泣く子も黙ると言われていて
商人などは彼等が通ると下を向いて目を合わそうとしない。
幕末の時代を駆け抜けた
史上最強にして最後の剣客集団
・・の、だらけたその姿に
土方は自分のこめかみに手を当て眉をひそめた
その時
「・・仕事だ。」
と呟くと同時に土方は瞬時に後ろを振り返り
カチャリ。
小さな音をたて鯉口を斬る。
ゆらり、
月明かりに照らされて
長く伸びる影が足音と共に
自分たちに近づいてくる。
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