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【Blast of wind(疾風)】
「原田さん、助けは必要ですか?」
時折、合わせる背中越しに
ハジメは少しも息を切らすことなく
冷静に俺に問いかけてくる。
こっちは汗だくだってぇのに、
コイツはいつもそうだ。
「いらねぇよ。
お前こそ必要なんじゃねぇか?」
俺は槍のように構えた刀を一度地面に向けて
柄まで流れてきた血を振り払う。
「私ですか?ご冗談を。」
ハジメはくすりと綺麗な顔でひとつ笑うと
静かに目を綴じて
ビュンッ!と刀を振り、風を起こす。
斎藤 一。
コイツは新撰組の中でも
何を考えているか分からない謎な奴だ。
総司の様な愛想もなければ、
いつも冷静で無駄口も叩かない。
ザッ。
ハジメは土を踏んだかと思えば
瞳を隠している睫毛を微かに揺らし
捕えた獲物に艶やかな笑みを零す。
ヒュン!
爽やかな風のように、
颯爽と相手の男に斬りかかる。
「!!」
そのあまりの速さに相手の男は
飛びのこうとするが、
時すでに遅し、
空中で弧を描いたハジメの刀に真っ二つにされ
ドサリと不気味な音を立てて崩れ落ちる。
と、同時に
ゆらり。
雲から姿を現した
青い月明かりを背に
地面に向いていた刀をキラリ夜空に向けて
瞬く間に隣にいた男の腕を華麗に斬り上げる。
まるで、疾風のように
軽快に刀を操るハジメの目は
思わず俺がゾクリとしてしまうほど
無表情で冷たく光る。
なんつぅ目をしてやがんだ。
人を人として見ていない目だぜ。
ザァァ・・
木々を揺らす風のように
白刃を夜月に妖しく輝かせ
まるで舞をしているかの様な
冷静で正確で隙がないハジメが
俺の敵じゃなくて本当に良かった。
ゴトリ。
刀を握ったまま
地面に転がる腕を見て
“お前、
相手が悪かったな。”
「ご愁傷様。」
俺は心の底から
相手の男を不憫に思う。
でもな、
喧嘩を売ってきたお前らが悪い。
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