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【fire-ball(火の魂)①】
「まったく祟りやがるぜ。」
そう、土方さんは鋭い眼を臥せ
嬉しそうに微かに口元を緩めながら
赤く染まった刀の背を自分の肩に乗せて
無造作に後ろに流している黒髪を掻き上げる。
そして、
ゆっくりと前を見据え
獰猛な夜行獣の様に
月明りにその眼を赤く光らせ
ギラリと下段右斜めに構え獲物を捕える。
その仕草が
むせ返るほど男臭く
大人の色気を漂わせていて。
「まったく土方さんたら
大人しく守られてくれないんだからなぁ。」
副長という肩書を余所に潜軍をきって暴れる彼は
私の小言を、
目尻に皺を寄せ静かに笑い
「当たりめぇよ。」
と、言った時にはもう
目にもとまらぬ速さで愛刀を夜月に振りかざし
ザッ、
瞬時に土を蹴り上げ
夜空に向かって跳躍し
ブンッ、勢いよく黒い影を真っ向から斬り下げる。
バサッ!!
吹き出る相手の血しぶきを避けることもなく
ただ、本能のままに
次の相手に斬りかかる土方さんを横目に
「本当に、根っからの喧嘩師なんですから。」
彼によって真っ二つに割られ
絶命した男が地面に崩れ落ちるのを見て
私は思わず苦笑いを零してしまう。
土方 歳三。
必要となれば眉一つ動かさず人を斬る
泣く子も黙る新撰組・鬼の副長。
けれど
彼のその美しい整った顔は
道行く女性たちが振り返るほどで。
誠と書かれた隊旗の赤と、
義を貫く浅葱色が誰よりも似合うそんな人。
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