第1話

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海面から50mも沈めば光も届かなくなる。 それでも僕の身体は沈んでいく、沈んでいく……際限なく下へと落ちていく。 もう何回目だろうか……ここからさらに深い深い海の底に全てが沈殿していくのを見るのは……。 ミシミシと水圧に身体が拘束されるのを感じながら、それに抵抗することができない。 焦りと後悔ばかりが光と反比例するように僕の中に満ちていく。 いっそ全てがそれになってしまえばいいのだ。 そうすれば動くことは出来なくても自らを殺すこともない。 ただ浮上する日が来るまでキリキリと痛む心に耐えればよいだけだ。 昔、親しんでいた孤独に今は耐えることが出来ない……。 だからいっそ深い深い暗闇の世界へと僕は望むのだ。 そして『底まで』沈みこめば、浮きあがった世界に生きている人達に僕は深海の世界の話を彼等に語ることが出来る。 浮上するまでは……辛く、苦しく、時には誰かを罵倒して泣き叫びたくなった気持ちを飾り立てて話すことができる。 だから一筋の光も届かない、辛く苦しいこの世界の中で両目を見開いてそれらを刻みこむ……悲しいけれど深海に沈むことを防ぐことは出来ないのだから……。 どこまでも深く、終わりの無いどす黒い闇の世界へと僕は止まることなく沈降し続ける。 果たして浮上するまであと何時間?何日?何ヶ月?それとも……もう…終わり?
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