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逢魔が時。この薄暗い、
山と夕闇を背景に、その古くなった血のような色彩の瞳はただただ自分の代わりに引かれた男を見下ろしていた。
「げほっげほっ…ぅい…
黒枝さんがいきなり道路に突き飛ばすから、お腹を蹴り飛ばされるなんてことに…げほっ。」
言葉を発したのはそんな紅い瞳の女の子だった。小学校に上がったばかりのような華奢な体躯。
長い黒髪。そんな髪に隠れて右半分だけが見える白い顔。
頭に飾られた大きなリボン。漆黒のゴシックロリータのひらひらした服。
『気味が悪いのに美しい』。
決して悪い意味で使うわけではなかった。
でも彼女に当てはまる形容詞はそれしかないのだ。その証拠に今の彼女のお腹をさすり半泣きで嘔吐く姿ですら、同性に興奮を覚えさせてしまうほどだった。
「はあ…はあ…、
それにしても黒枝さん。どこにいったんですか!?
まさかひき逃げ事件になったから逃げたとか!?
どうしましょう…
一先ず、空いてるお腹を満たしますか。ごふぇっ!!」
そんな面妖な、
誰もが“何故か”抱き締めたくなってしまうような彼女が
“引かれた男に食らいつこうとした時”だ。
トラックが走り去った方向から作業着姿の“物”が彼女の顔面めがけて飛んできた。
「こらあ!!
怪物め、成敗してやるゾ!!」
そう真面目なドスを効かせて叫んだのは、満面の笑みの男だった。
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