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俺が言った答えに、彼はとても穏やかな顔で微笑んだ。俺にとっては見たことのない俺の顔だったので、少しばかり気恥ずかしい。
「最初っから最後まで、君は本当に馬鹿だね」
「馬鹿だからな」
「認めやがったこいつ」
「そりゃあんだけ散々言われたらな」
「あははははははははははは。言いまくった甲斐があった」
笑った顔の種類の多さには辟易していたが、考えてみると自分はこんな風に笑ったことなど一度もない。そういう意味では彼の顔が俺そっくりで良かったのかも知れないな。
いや同じ顔だったから生き直すことが出来るんだけど。
「それでは君は、心残り満載のままそれら全てを無くすという自分の意思に、何か反論はあるか?」
「…無いな。弟妹達に愛されていた俺が、自分が愛された自覚がないまま死んだことは悔しいけど…」
俺は結局弟妹達を理由に生きていただけだ。弟妹達がいるから生きた。死ぬことに躊躇いがなかった。まあだからといって生き直す理由まであいつ等にあると判っては、もう色々と吹っ切れるしかないだろう。
彼は右手を伸ばして俺の右手を掴んできた。これは…握手と受け取るべきか?
「君は馬鹿だよ。しかし狂おしい程兄弟を愛することの出来る人間だ。正直君のような人間は五万といるが、顔が同じという点では初めてだぜ」
「…お前は色々ムカつくが、俺はもう少し笑った方がいいということは学ばせてもらった」
するとまた彼は厭らしい笑みを浮かべ、パッと手を離して後ろに下がった。
「愚直だな。最期の最後で君はまた馬鹿を晒した。何だかこれでは生き返してもまたすぐに死んでしまいそうだ」
「何が言いたいんだよ」
「…君が、絶対に生き抜く為のオプションを足そう。どうせ忘れる相手を恨むなんてやめてくれよ?」
「恨まれる自覚があるようなオプションなら足さなければいいものを」
「言っただろ?どうせ忘れる。それに折角創造した世界で君がいなくなってしまったら意味が無い。君には老死以外で死なないようにしてもらわなければ」
「それは約束出来ないな。俺は誰かの為に死ねるから」
「言うと思った」
神様は笑った。ただ今まで見た笑みとは違い、どこか悲しい表情だった。
お互いお別れをするときと同じように手を振って、神様は俺を見て、俺は神様を見返した。
「じゃーな、人間」
「じゃあな、神様」
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