妹弟達が可愛くて仕方ないという題名の昔話

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  少女がいた。 彼女はとある事情により兄の部屋で暮らしていた。そこが家の中で唯一居ることを許された場所であり、安全な場所だったからだ。 兄がいないとき、彼女はいつもクローゼットの中で毛布にくるまってジッとしていた。部屋に誰かが入ってきたとき、見つからないようにする為だった。ただ何もせず、この世界で唯一、優しくて愛情を向けてくれる大好きな人を思い浮かべ、動かないで待っている。 突然ガチャリと部屋のノブを回す音が聞こえた。一瞬身体が強ばるが、同時に「ただいまー」という明るい声が聞こえたことにより、少女は安心したように息を吐いた。 暫く物音がした後にこちらに向かってくる足音と鼻歌が聞こえ、コンコンと扉をノックされる。 「榧ー?いるー?」 優しい声が聞こえる。彼女は少し戸惑った後、控えめに中からノックをし返した。 途端に「開けるよー」という声と共に扉を開かれる。外から入ってくる光に思わず目を細めるが、その中から現れた人物を見ると口元が自然と笑った。 「お兄ちゃん」 榧と呼ばれた少女が両手を伸ばすと、兄はすかさず抱き上げてギュッと抱きしめる。それが嬉しくて、榧も力いっぱい抱きしめ返す。
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