934人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
「だがまぁそれでも安心したまえ。弟妹達は君と共に心中を図ろうとしたものの、間一髪で母親がそれを阻止したからな」
その言葉に目を見開いてもう一人の俺を見る。とてもじゃないが信じられなかった。そもそも母は父がいなくなる前に失踪している。どうしてこのタイミングで子供の前に現れると言うのか。
それも聞きたかったのだが、力みすぎたせいか口は動かなかった。しかし何を聞きたいのか察してくれたようで、先程より幾分か軽い調子で教えてくれた。
「信じるかは君の勝手だが、母親は元々父親の借金返済の為に出稼ぎに出ていたのさ。君は気付いていなかったようだが、利息が全く付いていなかったのは母親がその分を払っていたからなんだよ」
「あ…」
そう言われてみれば確かに、金を稼ぐのに必死でそんなことには目も向けていなかった。
「母親はちまちまと払いながら金を貯めていき、漸く借金の半分程を用意できたから君達を迎えに来たという訳さ。君達が全員無事だと信じてね」
そこまで言うと彼は一度深呼吸をして、眉を上げながら俺を見据えてきた。
「君は今言ったことを信じるかい?」
「それ、は…」
正直そんなことを言われるまで信じていた。と言うより今だって信じたい。弟妹達は無事で、母と共に無事に生きていると信じたい。借金は文字通り俺の全てを使って返したし、彼の言うことが本当なら母はこれから平和に暮らせるだけの金も持っている。真実ならば、とても嬉しい。だけど嘘なら、最悪弟妹達は…。
拳を力一杯握る。なのに身体が震えて力が出ない。
「ッ…!」
「ほらね、君は馬鹿だろう?」
呆れたように、馬鹿にしたように俺そっくりの顔が言う。いや間違いなく馬鹿にしているんだろうけど。
そして色々いっぱいいっぱいだった俺は、馬鹿にされたことで呆気なく堰が切れた。
「…お前一体何がしたいんだよ!!自分のこと神だとか言うし!俺の知りたいこと言ったかと思えば嘘かもしれないし…!糠喜びさせるくらいなら最初っから言うなよ…」
情けないことに泣いてしまった。しかも生まれて初めて号泣した。「ああ俺ってこんな泣き方出来るんだ」どこか冷静な頭でそんなことを考えていた。
しゃくりを上げながら思いっ切り泣いた。どうせ俺達しかいないんだ、どうせ俺は死んでるんだ、今だけカッコ悪くて何が悪い。
今だけ子供で何が悪い。
最初のコメントを投稿しよう!