読み飛ばしても問題ない生前のお兄ちゃんの話

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袖が濡れて気持ち悪い。 泣き止んだ後になって猛烈に恥ずかしくなってきた。しかし誤魔化しようもなく、赤面したのは致し方ない。 「君は泣き顔も馬鹿面なんだね」 「うるさい…」 大体誰のせいでこんなに泣いたと思ってる。一瞬でも安心させたあいつが悪い。 「それじゃあ本題に入ろうか、これ以上君の生前を語るつもりはないからな」 「本題?」 「おやおや君はもしかしてもしかすると生き残った弟妹達のことを死んだ君に知らせる為にここにいると思ってる?」 「いや…流石に死んだ人間は何も出来ないだろ」 「あー安心した。君がそこまで馬鹿だったらどうしようかと思ったぜ。単刀直入に言ってしまえば、君の為に世界を創造しようと思っている」 あんまりにもサラッと言ってしまうから、一瞬何を言われたか理解出来なかった。 「それってどういう意味なんだよ」 「何簡単なこと。あまりにも馬鹿な死に方をした君を哀れに思った神の一柱が、新米が故に世界を一つばかり創造してやろうと提案しているのさ」 それって全然簡単なことじゃないと思うが…。 「納得出来ないな。そもそも俺のような死に方をした人間なんて五万といるだろう。何故俺を選んだのか教えてくれないか」 「この姿を見て納得してほしいな。君と同じだろう?」 「お前が自分で変えてるんだろ?」 「まさか。さっきも言ったじゃないか。これは一種の偶像崇拝の対象。つまり仏像の姿と言っても何らおかしくないんだよ」 「いや俺は仏像じゃない」 「そりゃあ君から見たら自分と同じ姿にしか見えないだろう。しかし見方は千差万別だ、君だって大仏と似たような顔の人間がいたら大仏みたいだと思うだろう?」 「それとこれとは違うだろ」 「違わない。大体仏像だって仏神を象っている。もし神が姿を変えられるというならそもそもあんな珍妙な髪型をしているものか」 …確かに。と納得してしまう自分が確実にいる。 どこかで疑問には思っていた、何故奈良の大仏はあんなに変な髪型をしているのか。まるでパーマに失敗したおばさんのようだとは思っていたが、まさかあれが地毛だとは思っていなかった。しかもあれを変えることが出来ないなんて…俺には耐えられない。 「どうやら納得したようだね。いやはや全くもって無駄過ぎる討論だった。君がそんなにも大仏の髪型について疑問に思っていたとは予想外だ」
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