序章

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 その人は女性だった。しかもよく見ると、腹に子を宿した若い妊婦であった 「ドラゴンさん、どうか私を食べて下さい!そしてどうかこれ以上人を喰うのをやめて下さい!お願いします!!」 膨らんだお腹を支えながら、女性はドラゴンの前で深くお辞儀をした。 するとドラゴンは呆れたような顔で女性に向かって言った 「人を喰らうのをやめろだと?ふん!!そんなこと言われて我が素直にすると思っているのか?」  高い唸り声でドラゴンは女性の方へ顔を寄せた ドラゴンの鼻息は荒く、口からは血の匂いが漂ってきて、女性は今にでも倒れてしまいそうだった。 「そもそも人は何故こんな子を宿した女など、我に差し出すのだ?」 ドラゴンのいうとおりだ。 女性は運悪く、ドラゴンの生け贄候補として選ばれてしまい、出産間近だったのにも関わらず、人達は女性をドラゴンの巣に放りこんでしまったのだ。 「私は出来るだけ子を産んでから生け贄になるはずでした。しかし、皆はそれに反対し、危うく殺されかけました。」 それを聞いたドラゴンは女性のことを哀れに思い、女性の腹に鼻を近づけた ドラゴンの鼻が女性の腹に触れると腹の中の子がピクピクと動いた。生きていると、ドラゴンは肌で感じとった 「確かにお前の子は今でも産まれて来そうだな」 ドラゴンが女性の腹から離れると、女性は急に苦しみだした 「ああ!!い、痛い!!」 恐らく陣痛が始まってしまったのだろう。女性はそのまま横になり、荒い呼吸をしながらドラゴンにこう告げた 「ドラゴンさん…私は食べてもいいけど……お腹の子は……うっ!!」 「分かっておる。お前の子には手は出さんよ」 それを聞いて安心した女性の体は、ドラゴンの歯と歯に挟まれ呑み込まれた 「げふっ…安心しろ女よ。我も丁度子が欲しがったところだ」 そう言うとドラゴンはうずくまり、腹を抑えながら苦しみ始めた そして、ドラゴンの足元に小さな卵がコロリと転がって出てきた ドラゴンはその卵を優しく抱きしめると、安らかな眠りにつく やがて、卵の中から女性の腹にいた命が宿り、鼓動を繰り返し繰り返し弾ませた
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