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願いが通じたのか、彼女は3階に差し掛かったところで左に曲がった。どうやら目的地はこの階らしい
後を急ぎ、陰から彼女の背中を見る
彼女は、少し歩くスピードを上げた
しかし、俺は焦らなかった。なぜなら、今、俺のいるところから、どんつきにある部屋までは、1本の廊下がとおっているだけで、曲がり角などは存在しなかったからだ
どの教室に入るのだろうか。俺は物陰から、観察を続ける
そんなとき、彼女の足が止まった。どうやら、ここから見てどんつきにある一番端の部屋に用があるようだった
彼女は、その部屋の前にいったん本を置き、引き戸を開けて
もう一度本を持ち上げると、おそらく机かどこかに置いたのだろう。しばらくしてから、もういちどドア付近に現れて、静かに閉めた
「よし…」
俺は、彼女が完全に部屋に入ったのを確かめてから、その部屋へと向かっていった
このとき、俺はこう思ったものだ
俺は、いったい何をしているのだろう、と
今、彼女のあとを追って、あの部屋にたどり着いて、俺は何をしたいのだ、と
しかし、今更冷静になっても、もう遅かった
俺は歩み始めた足を止めることなく、その教室の前まで足を運び
そして、ドアの上に掲げられている、プレートにワープロ字で書かれている無機質な文字を、口に出して、読み上げた
「…化学…実験室?」
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