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化学実験室
ここは、俺も訪れたことがある
それは、先週の化学の授業だったと思う
いきなり実験室で授業をするのかと、内心驚いたこともあったけど、中学校のときに習った薬品だとか、実験室の使い方などのオリエンテーションが主だったので、後になってその趣旨を理解したのを覚えている
しかし、今は放課後だ
授業でもないのに、どうして、こんな辺鄙なところに、女の子が訪れる必要があるのか
…いや、正直に言うと、もう大体見当はついていたのだが
俺は
意を決して、教室のドアを開けた
「こんにちは!部活見学に来ました!!」
野球部仕込みの無駄に大きな声で、俺は声を張り上げた
入った瞬間、教室の後ろに掲げられている科学者たちの写真と対面する
その中にある、アインシュタインの写真と対面したとき、さすがの俺もドキッとしてしまった
おっと、今はそんな場合ではない
俺は教室中を見渡した
そこには、誰もいなかった
「…あれ?」
俺の間抜けな声だけが、誰もいない教室の中に響く
そんなはずはない
たしかに、俺は見た。あの女の子が、この教室に入っていくのを
その瞬間、俺は背筋に、ぞくっと冷たいものがはしる感覚を感じた
「まさか、ゆうれ」
「……どなたですか?」
俺の独り言は、その細やかな声によって、さえぎられる形になってしまった
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