死という概念

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女の子の後ろに続いて住宅街を突き進む。 途中、何度か名前を聞いたり、行き先を尋ねたりしたのだが、いまだに返答は返ってこない。 そんなわけで、アホみたいに僕は小さな女の子の後を追っているわけだが。 買い物帰りのおばちゃんが集まってお喋りをしていたり。 ちょうど学校が終わったのか学生もちらほらと増えてきた。 女の子の後ろを歩いている現状、まわりからはどのように見えているのだろうか。 娘と散歩する父親? いやいや、そんなに老けてはいないはず。 妹とお出かけ中のお兄さん? んー年の差的にどうなのだろうか。 恋人……。いや、それは断じてない。 小さな女の子の後を付け回す変質者に見られていたり。 そんなことを考えながら歩いていると、どこからか話し声が聞こえてきた。 「ねえ、あの子……」 「え? うわ、ほんとだ。大丈夫かな」 どうやら最後の考えが当たってしまったようだ。 少しテンパりながら、前を歩く女の子に声をかけた。 「なあ、どこに向かってるのかと、君は誰なのかくらいそろそろ教えてくれても」 「さあ、つきましたよ」 またしても華麗にスルーされてしまう。 もう、何も言うまい。 たどり着いたそこは、何の変哲もないごく普通の一軒家だった。 久野実、そう名前が書かれていた。くのみ? とでも読むのだろうか。 「私の家よ」 「お前のか」 思わず言葉を返してしまう。しかし、いったい何を考えているのだろうか。 こんな小さな女の子がはるかに年上の男を自分の家に招くなど。 ご両親も対応に困るではないか。 「ひとまず入って」 「いや、待てって。なんで僕を突然こんなところに」 僕の言葉が聞こえているのか、いないのか。 その後ろ姿では表情を読むことはできない。
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