死という概念

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「ただいまー」 女の子は靴を脱ぎ、奥へと入って行ってしまった。 玄関先に一人取り残される。 先ほどの女の子は戻ってくる気配もないし、勝手に入るわけにもいかないし。 そんな風に途方に暮れていると、中からセミロングくらいの茶色い髪をした一人の女性が現れた。 「お客様?」 その声に聞き覚えがあった。 「「あ」」 思わず声がかぶる。 その女性は同じ大学に通う、同学年の生徒だった。 だが、あいにくと一度も話したことがないため名前すら知らない。見たことあるなー程度だ。 気まずい空気が立ち込め、二人とも黙り込んでしまう。 先に沈黙を破ったのは彼女のほうだった。 「とりあえず、あがって?」 社交辞令の笑みなのかは知らないが、その笑顔に流されるまま家の中へと入った。 そして、今。 二人とは机を挟みソファーに腰かけている。 「私は久野実 くみか(クノミ クミカ)」 脈絡もなく突然名前を名乗ったのは、僕をここまで連れてきた張本人である女の子。やっぱり読み方はくのみでいいのか。 それにつづいて同じ学校の女性も名乗り始めた。 「あたしは久野実 あみか」 「あ、僕は……」 「苗字が一緒でややこしいから気軽に下の名前で呼んでくれて構わない」 僕の自己紹介を遮ったのは、言わずもがなクミカである。 もう慣れっこになり始めている自分が怖い。
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