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あの『声』が聴こえ始めたのはいつからだっただろう…。
夢の中はもちろん。
時にはしとしと降る雨音に混じって。
時には初夏の柔らかな陽射しに混じって。
時には繰り返し波打つ海の波音に混じって。
時には頬をなぞる冷たい北風に混じって。
時には暖かい暖炉の炎の揺らめきに混じって。
始めは聞き取れないほど小さな『声』だったけれど、徐々にその『声』は大きくなっていった。
不思議とあの『声』を怖く感じることはなかった。
そしてついに昨日、僕はあの『声』と会話をすることができた。
迷いはない。
僕は行く。
悪路にも耐えられる長旅用のブーツ。
動きやすくて丈夫な服。
その下にはチェインメイル。
短い髪を簡単に櫛でとかしつけて。
護身用に左腰にはプギオ(両刃の短剣)を装備。
ランプ、水筒、マッチ、雨具、必要最低限の路銀、それから…チョコレートをたくさん革製のヒップバッグに詰め込んだ。
僕のトレードマークのメガネも忘れずに装着。
目指すはエブリ王国!。
『声』に教えてもらった通りに、まずは空にぷかぷか浮かぶ羊雲の群れを探す。
4匹めの羊雲の下。
そこにある矢印形の水溜まりが指し示す方向へと進む。
ずーっと ずーっと ずーっと真っ直ぐ進む。
そうしたら、ヒヨコの門番が2匹立つ国境に到着した。
ここがエブリ王国の入口?。
ヒヨコ門番が僕に気付いた。
彼らはぴっぴっと鳴きながら小柄な身体に不釣り合いな僕の背丈よりずぅっと長い槍を傾けて門を塞いだ。
おおおぉぉ。
『声』に教えてもらった通りだ。
僕は焦らずにヒップバックからある物を取り出した。
「こんにちは門番殿。入国の許可を願います。」
そう言って僕は恭しくチョコレートを2粒、彼らの前に差し出した。
ドキドキ…。
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