サクラの蕾が開く頃ーー二人の年月

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「そうなんだ。」 「ああ。どれか一つでも、咲かなくなったら寂しいね。」 敦志は、敦志の腕を掴み、一生懸命上を見上げる彩をフワッと抱き上げ肩車した。 高くなった視界で、彩は必死に腕を伸ばして、枝の一つに彼女の指先が触れた。 「でもね、パパ。絵本で読んだの。なくなっちゃってもね、人の心では生き続けれるんだって。だからね、忘れなければいいんだよ。彩が忘れなければきっと桜も寂しくないんだよ。ね、サクラちゃん。」 まだ開いてない蕾をつつき、そう言って微笑んだ彩。 すぐに敦志と目があった。 敦志は私を見てふんわり笑うと、目線を肩車している彩に向け、彩との会話を続けた。 「そっか。じゃあ、毎年来なくちゃね。」 彩は足をバタバタさせる。 彩のそれは、降りたいとの意思表示。 肩車から降りて地面に足をつけると、「うん。またサクラちゃんに会いに来る!」そう言ってにっこり微笑んだ。 「な、この後、またエリカちゃんのところ行こうと思うんだけど、彩はどうしたい?」 切符を買う直前。 彩に意思を確認する。 嫌だといえば、家の最寄り駅までの切符。行くといえば、エリカさんのご実家の最寄り駅まで。 買う切符が異なる。 でも敦志の指は、彩が答えるよりも前にエリカさんの家に繋がる切符を押していた。
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