サクラの蕾が開く頃ーー二人の年月

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翌日、数冊の絵本を買った。 たかが絵本と侮るなかれ。 ずばり大切な人の死を扱ったものから、大切な人を遺していく者の気持ちを扱ったもの、実に考えさせられる絵本がこの世にはたくさんあった。 夜寝る前のほんの15分。 敦志が早く帰れた日は敦志が、遅い日は私が、彩にいつも読む絵本に加えてさり気なく一冊そういったテーマの絵本を入れて読み聞かせた。 「天国ってあるのかな。」 「忘れられちゃったら、寂しいよね。」 「彩、ひとりぼっちになりたくない。」 「パパとママはいなくならないよね?」 不安そうに、時に泣きながら。 彩はじっと物語に聞き入る。 「ずっと手を繋いでいてね。」 そして寝る時は、手を繋ぐようになった。寝ている間に私や敦志がいなくなるのが、堪らなく不安なのだろう。 こうすることが、果たして彩がエリカさんを受け入れることに意味があるのか。 正直、この段階にきても未だ答えは見つからなかった。 死がただ不安に怯えるものだとしたら、それこそ間違っている。 どうしたものか。 立ち止まり悩み始めた頃、機会が訪れた。 「奈々子。桜、少し咲き始めたって。次の週末、行こうか?」 それは春の訪れを知らせるニュース。 彩が嫌がったら桜を見にいってそのまま帰ろう、そう二人で決めてその週末私達は再びあの桜並木を訪れた。
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