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「あ!桜!ここ、咲いてるよ!ねぇ、ママ、パパ!早く!早く!」
満開にはほど遠い。
それでも、まだ時折寒さが厳しい四月初旬。
チラホラ開き出した蕾は、寒さを払拭するくらいに美しかった。
きっと来週末には満開をむかえるだろう。
全くゼロだった桜が、いくらか花を咲かせた。
ただそれだけで彩は瞳を輝かせる。
その姿がとても愛しい。
「彩。この桜はね、パパが15歳の時からここにあって、毎年花を咲かせてるんだよ。」
「えー!15歳?パパ、15歳のときあったの?」
一応三十までは完璧に数を理解している彩。十五歳から?と驚くかと思いきや、敦志に十五歳の時があったことに驚いているようで、一瞬敦志が言葉をつまらせた。
「パパだって、ママだって、彩と同じだよ。一歳だった時も二歳だった時もあるんだよ。」
「えー?そうなの?」
「ああ。桜もね、彩やパパやママと同じで一歳、二歳って、一つずつ歳をとっていくんだ。木の場合は年齢ではなくて、樹齢って言って……、この木は何歳だろうね?」
数十個ほどの花を咲かせた桜の木に触れ上を見上げた敦志は、彩にそう問いかけた。
「何歳かなぁ?五歳?十歳?」
「どうかな。ここに並ぶ一本一本、みんな歳が違うかもしれないね。もしかしたら来年には咲かない木もあるかもしれないし、100年も咲き続ける木もあるかもしれない。
誰にもね、分からないんだ。」
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