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「あ。ほら、純さん出来ました。」
段ボールから取り出したバランスボールをポンプで膨らませた千尋は、一仕事終えたような充実した表情で俺を見た。
新たに購入したマンションへ引っ越してきて、ただ今荷解きの真っ只中。
俺と彼女の私物の段ボール比、実に2対8。
ほとんど終わりかけの俺に対して、千尋はまだ開けてもない段ボールが山積みになっている。
「んーー、シルバーだとバランスボールもお洒落ですね。」
いつまでたっても終わりそうにない彼女の荷解きに呆れながらも、
ニコニコ嬉しそうに膨らませた大きなバランスボールを手で軽く弾ませるその姿は犬がボールとじゃれあっているように思えて、かわいいなあ、と口元がつい綻ぶ。
「あ。今絶対、私、犬でしょう?」
俺の表情に敏感な千尋は弾んでいたバランスボールを抱え込み、唇を尖らす。
9歳も年下の彼女。
普段の千尋は、やることなすこと実年齢より遥かに幼い。
だけど───、
「…………、」
胡座をかいた俺の足に、無言でソロソロ伸びてきて軽く置かれた彼女のつま先に、綻んでいた口元が更に綻ぶ。
「いや。いい女だなって。」
「えぇぇっ!?」
瞬時に真っ赤になる千尋。
同時に触れた彼女のつま先が離れていく。
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