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「食った食った」
「なかなかよかったぞぉ」
「ふむ、無難だな」
「自分がせっせと焼いてあげたのに、そんな言葉しかでないんですか」
「私は美味しかったよ」
「え!あ、ありがとうございます」
「さて、もうひと浴びするかな」
「よっしゃ」
「行くかぁ」
「ちょ!片付けはどうするんですか!?」
先輩がそっと、自分の肩を叩いた。
「任せた」
先輩。何故あなたがそんなに切ない顔をするんですか。
「もういいですよ。行ってきてください」
先輩たちは夜の海へと向かっていった。
先輩。何故あなたの背中はそんなに哀愁を漂わせているんですか。
何はともあれ、やっと終わった。
「あれ、松島さんは海入らないんですか?」
「私はいいいよ」
「そうですか」
「水着忘れたとか?」
「ううん」
「……実は私、海に入れないの」
それは初耳。
「病気で水を浴びたり出来ないんだ」
「病気ですか。でもこんなとこにいたら入りたくもなりませんか?」
「そうだね」
「お医者さんの話だと手術すれば良くなるらしいんだけど」
「難しい手術なんですか?」
「うん、どうなるかは半分半分らしいの」
どうなるか、か……。
「でも、私はどうしても海に入りたいんだ」
「あそこに岩場があるでしょ」
300メートルぐらい離れているだろうか、指が指された先にはたしかに半径10メートルほどの岩場があった。
「私、小さい頃、あそこに大切なものを忘れてきてしまったの」
「他の誰かに持ってきてもらうことはできなかったんですか?」
「あれは私が自身で取りに行かなきゃいけいなの。そうしないと意味がない」
「だから私はこの病気を直したい」
「店員さんなら、きっと直りますよ」
「無責任」
「うっ……」
確かに。
「……そうだ!ねぇ。来年の同じ日、またここに来てよ。それまでに私、覚悟を決めて病気を直す!」
「そして一緒に泳ごう?こう見えても病気になる前は、泳ぎ凄く得意だったんだから!」
「へぇ」
「信じてないでしょ?」
「そんなこと無いですよ」
「……だから、ねぇ?」
それは出来ることなら行ってあげたい。でも絶対に行ける保証なんてどこにもない。簡単には承諾するべきではないだろう。
暫く沈黙が続いた。
「……わかりました。必ず行きます」
「本当!?無責任は無しだよ?」
「はい。約束します」
「ありがと。少し勇気が出たかも」
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