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藤堂さんは、本当に綺麗だった。
僕の対面に角度を持って座り、その目は僕ではなく遠くを眺めている。けれど、悠斗みたく過去を見ているのではなく、どこも見ていなかった。人の話を聞き流してしまうように、藤堂 紅は”見流して”いる。笑ってもいない。感情が見られない。見られていることに、なんの感情も持っていないようだった。
綺麗なのに。
まるで、つくりものみたいだった。
綺麗なのに。
届かない距離にいるようだった。
「終わった?」
授業が終わる5分前に、彼女は口を開いた。始めて、僕を見た。意識がこちらを向いた。あまりのことに、焦った。
「あ、ああ。うん、終わってない」
「そう。じゃあ来週またね」
今日描ききれなかったときは来週続きを描く。そういう取り決めだったために、来週もモデルをやってもらえる。
さっさと立ち上がり片付けを始める藤堂さんの横顔を見て、それからスケッチブックを見る。
30分かけて描いたのは、ただの落書きだった。
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