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別に最初からそう思っていたわけじゃない。
思えなくなっただけだ。
やはり女子に生まれただけに、結婚はとても憧れる人生のステップの内の一つだった。
友人や、社内で誰かが結婚すると訊けばそれはとても羨ましいものだったのだ。
内心、焦りはあった。
周りは次々と結婚してゆき、取り残される側に自分がいると思った時に。
それでも、私は必ずできると思っていた。
………あんなことがあるまでは。
「ユイさん~。資料、もちましょうか?」
廊下を歩いていると、背後から不意に声をかけられた…が。
声の主を察知するとツカツカと歩みを速めた。
「いえ、結構。」
「持ちますよ~重いでしょ?」
それでも尚しつこい声の主の元を振り返ると、キッと睨み付けてやった。
「仕事サボりたいだけだろ?」
「いやいや、そんなことないですって~。ユイさんが重そうに運んでたんで。」
そいつの隠せない腹の肉が、スーツのボタンを圧迫しているのを見てさらに溜め息がこぼれた。
三個下の後輩の吉井という頼りないことこの上ない男だった。
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