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勉強しなさい。
父親はそう言って部屋を出た。
部屋には少女一人が残された。
母親は少女が物心が付く前に離婚し、顔すらも知らない。
きっと街ですれ違ったところで互いに気付かないのだろう。
少女は暫くの間、目の前の机に並ぶ筆記用具を見つめる。
色味のなく、あくまで文字を書く為の道具、シャープペンシル。
百円で売られている消しゴム。
罫線のみが引かれたノート。
父親の秘書が言う、お父様のような立派な人間。
少女は知っている、彼女は秘書なんかじゃないと。
シャープペンシルを二回ノックすると、折れた芯がポロリと落ちた。
少女は手で払う。
サッと擦れる音がなり、白いノートに一筋の線が入る。
少女は鞄から教科書を取り出すとため息をついた。
皺になった教科書は、広げているノートと同じ人物が使っているようには思えない。
表紙を開いたところの目次は黒いマジックで塗り潰されていた。
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