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『わが親愛なるアリシアへ
ここを出ていく前に一言言っておこうかと思ったけどやめにした。どうせ言ったって、一緒に行くって駄々をこねるだろう?
まずは、アリシアの隣にずっといられない事を謝りたい。いつか誓った約束を破ってしまった。
出来れば、私宛に手紙を書いてくれ。アリシアの身の周りの事を教えてくれると私もその場にいる気になれるんだ。
最後に重要な事をひとつ。
私は、次にいつになればアリシアに会えるのか分からない。
でも、アリシアは一人じゃない。離れて過ごしていても兄弟だという事を忘れないで欲しい。
これで最後だ。
アリシア、君は私が急に消えて泣くのは目に見えている。だけど、どんなに悲しくても涙は流さないで。
ずっと会えなくなるのかも知れないけど、きっと会える。私はそう信じている。その時は、いつもの笑顔で笑ってほしい。
これでおしまいだ。
じゃあ、また。 』
差出人の名前は書かれていなかった。読み終えたアリシアは愕然とした。見間違う事はない。このなめらかな筆跡はキリクだった。
「っ…キリク?!」
アリシアは手紙を片手に部屋を飛び出した。近くにいた兵に聞く。
「ねぇっ、キリクは!?キリクはどこに行ったの!!?」
「キ、キリク様ならすでに小一時間前に城を出ていかれました。」
若い兵は焦ってそう答えた。アリシアはさらに聞く。
「キリクはどこに行ったの!?遠い所!?」
「スウィレラ国ですよ。アリシア様にもお伝えしようと思いましたが、キリク様が伝えてはならないとおっしゃって…。」
「知らない…知らなかった…。」
アリシアはぱっと廊下の先へと駆け出した。兵が声を掛けるのも聞こえないとでも言うように大きく腕を振って走った。
着いた先は庭だった。いつもキリクと一緒に遊んでいたほどアリシアは好きな場所で足を止めた。握りしめて丸まった手紙を広げて朝日にかざす。
「キリク…絶対に戻ってきてね…!待ってるよ…!」
アリシアは涙を浮かべながらも笑顔で近くにはいない兄弟に向けてそう言った。朝日に照らされた花たちは一層輝いていた。
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