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その件を扉の前で聞いていた者が一人いた。
「……グレヴィン。」
「どうしました?キリク様。」
キリクは背後についている世話係のグレヴィンに背を向けたまま声をかける。
「スウィレラ国王に伝言を伝えてくれ。『キリクがそちらに住居を移す』と。私は叔父上の所に向かう。」
「承知いたしました。ですが、住居を移すとは一体どういった意味ですか?」
怪訝そうに問うたグレヴィンに、キリクは振り返る。
「私の最後のわがままだよ。」
夕日が照らすその顔からは、悲哀と少しの茶目っ気が混ざりあった笑顔が浮かんでいた。
「…では、これで失礼します。」
キリクは一礼して宮殿を静かに出ていった。
「わたくしは…時々あの二人が怖くなります。」
王妃はひっそりと呟くように国王に話しかけた。国王はゆっくりと涙で頬を濡らした王妃の横顔を振り返る。
「彼らは…生まれた時から環境が特別であったが故に、年相応の感情が薄れているように見えるのです。」
「年相応の感情の薄れか…。確かに、二人は他の同年代の子より"大人びている"のかも知れないな。」
国王のそう言って、キリクが去った宮殿の入り口を見つめた。
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