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彼はこの田舎町では、少し名の知れた探偵だった。
幾度となく困難と言われた事件を解決に導き、現在も事件の犯人を追っている。
ある警察署。二人の歩みが音を刻んでいく。
うざったい軽口に挟まれているが、歯牙にもかけずに青年は歩を刻んでいく。
犯人の目星はついていた。
暗澹な扉を開いて、やっとまともな光を浴びる。そこには犯人たちが手錠をつけられ、看板を持って立っていた。大半が刑の決まっている者たちだ。確かにどこか瞳のなかに凶器を宿している。
怯むことなく、コートを着た秀麗な顔立ちの青年が狭い室内の端から端までを舐めるように歩く。
ーーーーこの場にいるのは、
髭を蓄えた老人。髪が肩まである頼りない少年。五分刈りのスポーツマン風の青年。それに先ほど扉から颯爽と現れたコートの青年と太った警察官。計5人がこの取調室の中にいた。
青年がやけに耳につく低い声を発する。
「この中に犯人がいる」
そして、推理を語り始めた。
「連続殺人事件の犯人の犯行の手口はこのロープを使い、首を絞め殺害すること」
青年は手にしたロープを見せる。その姿に少年が頼りなく質問した。
「まさか!? この町にはたちどころに難事件を解決する名探偵がいると……貴方がその探偵なんですか」
青年は何も言わずに首をたてに振った。そして続ける。
「犯人は暗い路地裏に女性を引きずり込み、いつもの手口で首を絞めて殺害。だが、この女性は体が悪く、首を絞められたことにより、吐血した」
青年は囚人の表情を蛇のように見渡した。
「君たちは知らないかも知れないが、血は簡単にはとれない。検査をすれば1発という訳だ」
「……という事は、俺たちの中に犯人がいると言うことか?」
と、筋肉質な青年。青年は何も言わずに続けた。
「DNA鑑定の結果……君のコートにその女性のDNAが見つかった……もう逃げる事はできない、君が犯人だ」
青年は頼りなさそうな少年を指差す。少年は驚きを隠せない。
「君は常日頃から、縄を護身用だと、持ち歩いていたそうだな?」
消え入りそうな声の少年は語り始める。
「俺は少なからず、人に恨まれる事をしてきたと思う。だが、自分を貫いてきた」
段々と声色が変わっていく少年を青年は訝し気に睨む。
「悪人の言い分だな、後は地獄の閻魔にでも聞いてもらいな……」
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